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執筆者の写真キャップ野球チーム 横浜国立大学

秋雨

18度。

 朝起きて、視界のまだ濁っているけれどなんとか仕入れた情報。

 なかなかはっきりとしない意識に喝を入れる冷たい空気。

 金木犀が咲いて馨しい香りだと思っていたら、すでに10月は半分を過ぎていた。

  


 沖縄には季節なんてない。寒いか暑いか、それだけ。

 実際「冬」でも20度を超えることなんてザラにあった。

 じゃあすべて「夏」だったのかというとそうでもない。

 

 ちょうど今の時期、少し遡ってみれば文化祭が消え失せて。

 金木犀の香りを空想の中に探し回ってみたりしながらいろんな「秋」を探そうとしていた。

 探すべきは志望校だったりした。だから空想の中でだけでも好きなものを探した。

 薄い朝焼けさえまだ微睡に包まれたまま、白い息のちょうど出そうででないしんみりとした寒さ、人はおろか車の影もない。バスを待った。

 乗車後に毎度感じる、外の透明な冷気とは打って変わって少しばかり息苦しい籠った空気。揺られながら無理やり英単語帳をめくる。カフェイン替わりの音楽と鼻をすする。

 前に座る女子はすごい努力家で倒れそうになることもあって、その甲斐あってか持ちうる学力より上の大学に合格を決めていた。俺はいつも比べてコンプレックスを抱きながら、しかし素直に推薦合格を喜ばしく思っていた。無情にも仲のいい友人はみなすぐに進路が決まっている。

 親に人生で初めて勉強しろとせかされた。

 自分の才能のなさを初めて知った。

 努力の難しさを初めて味わった。

 薄暗い朝から雲の上に星が煌めくまで延々と学校。


 でも、楽しくないわけじゃなかった。

 放課後にただ何も考えずにしゃべるだけの3時間だとか。

 たまにしか会えない小学校来の友人とバスケしたりだとか。

 好きな子と飯を食って遊ぶ口実に受験勉強を持ち出したりとか。

 それで振られたりとかw。


 青春だった、あれはかけがえのない、決してかけがえのない青春だった。

 俺は常にあの時の自分を後悔して、しかし誇りに思っている。

 

 18になって、大人と認識されるようになって、人生で初めての秋。

 何もかも頓挫しそうで、したものもあって。

 そのたびに周りの友人に、先輩に、家族に支えられて生きていることを実感する。

 感謝。


 幾年月さて望郷の金木犀

            

南條 楽

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